ビックデータと機械学習を用いた予測技術の急速な進歩は、社会的な課題の解決にパラダイムシフトを起こしています。一方で海洋から得られるデータは少なく、この恩恵を受けるには十分とは言えないのが現状です。温暖化や気象の予測、地震津波等の災害予測のような海が深く関係する社会的課題を理解、解決するためには、予測精度の向上に資する海域からのデータ獲得が不可欠で、通信用海底ケーブル技術を基軸とした海域観測への期待は非常に大きなものがあると考えます。今回7回目の開催を迎える「海底ケーブルの科学利用と関連技術に関する将来展望」では、最新の海底ケーブル関連技術や観測手法、取得データの社会実装の実例等に加え、国内外で新たに進むプロジェクトに関して話題提供を行います。今回は現地開催といたします。会場でお目にかかれることを楽しみにしています。
日 時:2024年12月5日(木)13:00 - 17:00 (意見交換会:17:30 - 19:30)
会 場:東京大学生産技術研究所 An棟2F コンベンションホール (意見交換会:An棟1F アーペ)
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/access/主 催:東京大学生産技術研究所 海中観測実装工学研究センター
協 賛:東京大学地震研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立研究開発法人防災科学技術研究所、IEEE/OES Japan Chapter、
日本船舶海洋工学会、海洋調査技術学会、海洋音響学会、海洋理工学会、東京大学海洋アライアンス、海中海底工学フォーラム・ZERO参加費:無料(意見交換会:6,000円)
参加申し込み先:本会合は事前申し込み制です
東京大学生産技術研究所海中観測実装工学研究センター・事務局 杉松治美
〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1 東京大学生産技術研究所
電話:03-5452-6487, Fax:03-5452-6488
E-mail:harumis@iis.u-tokyo.ac.jp
申し込み期間:11月29日(金)までにメールにてお申し込みください。プログラム:Program_WS20241205.pdf
*本WSは現地開催いたします。プログラムは主催者の都合により変更する事がありますので、御諒承ください。
0) 13:00-13:05:開催のあいさつ:実行委員長・川口勝義
Keynote:会場にて現地とオンライン中継いたします。
1) 13:05-13:35:Observing the oceans and Earth with submarine cables with a look toward the future
University of Hawaii・Bruce HOWE【概要】:The ocean is key to understanding climate change, sea level rise, ocean warming, tsunamis, and earthquakes. Because the ocean is difficult and costly to monitor, we lack fundamental data to adequately model, understand, and address these processes. Over the last decades, dedicated submarine cable systems have been supporting science and early warning. These are now evolving to include a commercial component. The Science Monitoring And Reliable Telecommunications (SMART) Cables Initiative is working to integrate sensors into telecom cables. These sensors will share the power and communications infrastructure of millions of kilometers of undersea cable, enabling seafloor-based global ocean and Earth observing at modest incremental costs. The UN Joint Task Force (JTF) is facilitating the adoption and implementation. Initial sensors include temperature, pressure, and seismic motion. These sensors will provide data for improving ocean heat content and circulation and sea level rise estimates, global tsunami and earthquake warning networks, and geophysical understanding of the earth. These sensors and future extensions can help protect the cable from natural and anthropogenic hazards. We review some history and then describe the SMART initiative and provide more detail on two systems: Tamtam connecting Vanuatu and New Caledonia, and Atlantic CAM connecting Lisbon (the Continent), Azores and Madeira in a 3700 km ring with SMART nodes along the cable, both to be installed in 2026. Opportunities for further developments (aka SMART+) to improve both ocean observing as well as cable protection and security will be discussed.
Bruce M. Howe.CV講演
2) 13:40-14:00:スマートセンシングケーブル~我が国初の大規模な水中音常時監視システム
早稲田大学・赤松友成【概要】:我が国の排他的経済水域には日本人が慣れ親しんできた水産資源だけでなく、洋上風力などのエネルギー資源や海底鉱物資源が存在している。一方で、違法漁業や領海侵犯は後を絶たず、今後こうした侵入活動は水中にも拡大すると思われる。膨大な排他的経済水域を管理するためには、その辺縁部を通過するあらゆる発音物体を検知するカーテン状の監視システムが有効である。例えば鳴いているクジラがこれを通過した際に、その位置と時刻がリアルタイムでわかれば、EEZ内の資源管理に大いに役立つだろう。経済安全保障重要技術育成プログラム「海面から海底に至る空間の常時監視技術と海中音源自動識別技術の開発」では海底ケーブルを用いた我が国初となる大規模な水中音監視システムを構築する。
資料3) 14:00-14:20:国際ケーブル保護委員会(ICPC)のホットトピックについて
KDDI(株)・黒田浩之【概要】:国際ケーブル保護委員会(ICPC: International Cable Protection Committee)は海底ケーブルの保護を目的に1958年に設立された全世界をカバーする唯一の海底ケーブル関係団体である。海底ケーブルオーナーに加え、サプライヤ、ベンダ、船運航者等、70か国以上から218のメンバーが登録している。ICPCで報告されている世界の海底ケーブル障害の発生状況や昨今話題となっているファイバセンシング技術の有効活用、海底渓谷が海底ケーブルに与える危険性やケーブル位置情報の取り扱い等について紹介する。
資料4) 14:20-14:40:量子暗号通信の紹介と海底光ファイバ通信への応用
NECアドバンスドネットワーク研究所・前田和佳子【概要】:近年,量子コンピュータの飛躍的な発展により現代暗号の危殆化が危惧されている。このため、計算の複雑性により安全を担保している現代暗号に代わって、物理法則と情報理論により安全が保障された量子暗号への期待が高まっている。量子暗号通信は、「量子鍵配送(Quantum Key Distribution: QKD)」という暗号鍵を共有する仕組みと、ワンタイムパッド(One-time Pad)という暗号化/復号化方式の2つの部分からなる。QKDは光ファイバ通信と技術的な類似点が多く、将来的には光ネットワークとの共存を目指した研究が進められている。QKDは伝送距離に制限があるため長距離通信には向かないが、海底光ファイバ通信への応用に向けた研究も始まっている。
資料5) 14:40-15:00:令和 6 年能登半島地震と海底ケーブル故障
KDDIケーブルシップ(株)・藤原空【概要】:2024 年 1 月 1 日に発生した能登半島地震による影響を受け、日本海に敷設されている通信用海底ケーブルに故障が発生した。相互補完構成のため 2 本ある海底ケーブルは、異なる箇所において故障が確認された。故障位置特定作業にて、複数に渡るケーブル故障点が特定され、その全てが富山深海海底谷を横断する付近と特定できた。地震発生により海底でどのような変動が起きケーブル故障へ至った経緯と因果関係やケーブル修理工事への取り組みと実績等に関し紹介する。
資料
15:00-15:20 Break
6) 15:20-15:40:南海トラフ地震の新たな観測の窓~南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)完成間近~
防災科学技術研究所・武田哲也、三好崇之、青井真、功刀卓、篠原雅尚、植平賢司、望月将志
東京大学地震研究所・篠原雅尚【概要】:南海トラフ地震の想定震源域においてまだ観測空白域であった高知県沖から日向灘の海域で進められていた新しい海底地震津波観測網の整備が終盤を迎えている。本整備は2019年より開始し、開発、試験、製造を経て2024年1月に沖合システムの敷設が完了した。7月からは沖合システムの試験運用が始まっており、8月8日には初の南海トラフ地震臨時情報が発表されるきっかけとなった日向灘の地震(M7.1)を観測することに成功し、得られた地震や津波のデータは観測網の性能をみる上で貴重なものとなった。本講演では、これまでの観測網整備を振り返り、整備が完了している沖合システムのデータの品質について紹介する。また、最終段階を迎えている残る沿岸システムの整備状況についても報告する。
資料7) 15:40-16:00:DONET等の観測データを用いた津波監視システム
中部電力技術開発本部原子力安全技術研究所・久住隆夫【概要】:津波発生時には、気象庁から大津波警報等の予報が発信されるが、その予報値は静岡県全体の代表値であり、予報津波高さも1、3、5、10、10m以上と浜岡原子力発電所地点での詳細な津波情報は不明である。そこで発電所では、来襲する津波の到達時刻、高さ及び収束時刻を予測する『津波監視システム』を運用し、緊急対応、避難及び点検・復旧計画立案の一助としている。予測には、防災科研のDONETが観測する水圧や地震動 、国交省のGPS波浪計が観測する水位、そして自社で設置した海洋レーダが観測する津波の視線流速といったリアルタイムデータを利用する。本発表では、これらのデータをどのように津波の予測に用いているかを紹介する。
資料8) 16:00-16:20:海底光ケーブルによる津波観測から見えてきた今後の方向性と課題
海洋研究開発機構・利根川貴志【概要】:分散型音響センシング(DAS)技術を用いて、海底ケーブルによって様々な波動場が観測されるようになった。しかし、津波の観測は、発生頻度が少なくDAS観測の期間や場所にもよるため、これまでほとんど例が見られない。2023年10月9日(JST)に日本の南岸に設置された潮位計で海面変動が観測されたが、JAMSTECでは室戸沖でDASの連続観測を実施しており、その津波の信号の観測に成功した。本発表では、DASによる津波観測の詳細に加えて、DAS記録が津波伝播のどのような物理量を観測しているかなど、より定量的な議論まで踏み込んで報告する。また、それによって見えてきた課題についても紹介する。
関連論文 / プレスリリース / コラム9) 16:20-16:40:海底掘削孔内光ファイバーによる南海トラフ巨大地震発生帯のモニタリング
海洋研究開発機構・荒木英一郎【概要】:南海トラフの巨大地震に向けて海底下に沈み込むプレート境界がどのような状態にあるのかを把握するために、私たちJAMSTECの研究チームは2023年11月に地球深部探査船「ちきゅう」で、南海地震震源域沖合でゆっくり滑りを繰り返していると考えられる海域に掘削孔を掘り、光ファイバーセンサなどから構成される新開発の孔内センサシステムを設置しました。この海底孔内に設置したセンサは、海底ケーブル観測網DONET-2に接続してリアルタイム観測を2024/1/2より連続的に行っています。8/8日向灘M7.1地震が発生、南海トラフ地震情報 巨大地震注意の発表に際しても、南海地震の震源域沖合にあたるこの海底孔内観測点でゆっくり滑りなどの発生状況を調査しました。今後、同様の海底孔内観測点を、四国沖、日向灘などにも展開して、南海トラフ沖合のプレート境界の状況監視に役立てたいと考えています。
資料*) 16:40-16:50:協賛学会特別行事
IEEE OES Japan Chapter Young Researcher Award2024表彰式等を予定しています。
00) 16:50-17:00:閉会のあいさつ、防災科学技術研究所・高橋成実
*) 17:30- 19:30: 意見交換会
場所:An棟1F アーペ
会費:6,000円
事前お申込が必要です(11月29日以降のキャンセルは承りかねますのでご諒承ください)支払は会場にて御願いいたします。