海底ケーブルの科学利用と関連技術に関する将来展望-は、今回6回目の開催を迎えます。本ワークショップでは、海域でのリアルタイム観測を実現できる通信用海底ケーブルシステムの可能性に着目し、その利活用や技術動向について議論を行ってきました。今年度も光ファイバーセンシングを導入した関連要素技術、リアルタイムかつ連続長期的にとられたデータから得られる科学的成果、これら新たな知見の社会実装など、多様な視点からアイデア、研究成果、開発計画等について紹介を行います。コミュニティの繋がりを深め、関連技術の付加価値を高めていくことを目的とした本ワークショップ、インパーソン/ウエビナーのハイブリッドでの開催となりますが、可能な方はぜひ会場での参加をご検討ください。
日 時:2023年12月8日
主 催:東京大学生産技術研究所海中観測実装工学研究センター
協 賛:東京大学地震研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立研究開発法人防災科学技術研究所、IEEE/OES Japan Chapter、
日本船舶海洋工学会、海洋調査技術学会、海洋音響学会、海洋理工学会、東京大学海洋アライアンス、海中海底工学フォーラム・ZERO
プログラム:Program_WS20231208.pdf
0) 開催のあいさつ:実行委員長・川口勝義
Keynote
1) 13:05-13:35:海底観測研究の未来像
香川大学四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構・金田義行【概要】:海洋研究は地球を科学するために必要不可欠である。そのための有効手法として海底観測網によるモニタリング研究がある。海底観測では光ケーブルに各種観測センサーを加えた地震津波観測網や光ケーブル自体をセンサーとするDAS型などのモニタリング研究がある。今後は光ケーブルによるモニタリング研究に加え、AUVや水中ドローン等による海中モニタリング、海底観測網に長期坑内計測システムを加えた海底地殻内モニタリング研究などの海洋ならびに海底地殻活動の総合的なモニタリング研究が重要である。また、すでに実装されている海底通信システム、石油天然ガス生産モニタリングおよび二酸化炭素の地中貯留モニタリングの高度化や海洋環境モニタリングの研究開発も喫緊の課題である。ここでは海底観測研究の未来像について述べる。
資料講演
2) 13:40-14:00:南海トラフにおける長期孔内観測点の開発と構築
海洋研究開発機構・町田祐弥/荒木英一郎/横引貴史/辻修平/馬場慧【概要】:南海トラフにおける地震発生帯では熊野灘に設置された長期孔内観測網により、浅部沈み込み帯においてゆっくり滑りが繰り返し発生していることが明らかになったが、より広域的にもGNSS/A観測やVLFEの発生などからゆっくり滑りの発生が示唆されている。そこで海洋研究開発機構では広域での浅部ゆっくりすべりを捉えることが期待できる新たな長期孔内観測システムを開発し、2023年11月には本システムを「ちきゅう」により紀伊水道沖に設置、2024年1月にはDONETシステムに接続してリアルタイム観測を開始する予定である。本講演では南海トラフに設置する新規長期孔内観測システムの概要を紹介する。
資料3) 14:00-14:20:DONETデータを用いた地殻活動モニタリングとb値
静岡県立大学・楠城一嘉
海洋研究開発機構・山本揚二朗/有吉慶介/堀川博紀/矢田修一郎
海洋研究開発機構・高橋成美【概要】:DONETの目的の一つは、南海トラフで起きる地震やスロー地震など地殻活動をモニタリングすることである。例えば、DONETのデータを用いて気象庁やJAMSTECが作成する地震カタログ(地震の震源情報のリスト)はその産物の一つである。地殻活動の推移把握などに地震カタログを利用するには観測網のモニタリング能力の理解が必須である。本講演では、地震の検知の観点からDONETのモニタリング能力を評価する。そして、評価結果をもとに、b値という地震の指標を定量化して、地殻活動の推移把握に利用した例を報告する。DONETの一部(例えばケーブルと観測点の連結など)が故障し修理しない場合、推移把握に影響が出ることが示唆される。
資料4) 14:20-14:40:南海トラフ域における鉛直地震計アレイ記録を用いたプレート境界モニタリング:光ケーブル観測への応用を見据えて
海洋研究開発機構・利根川貴志/荒木英一郎/町田祐弥【概要】:南海トラフの孔内C0002サイトでは、海底下900 mと海底に地震計が設置されている。この2つの地震計で観測された常時ノイズ記録に地震波干渉法を適用することで、深部のプレート境界(分岐断層と海洋性地殻の上端)からの反射波を定常的に抽出でき、その振幅を計測することでプレート境界の物性をモニタリングできることがわかってきた。将来的にはこの技術を孔内での光ケーブル観測記録へ応用することも期待される。
資料5) 14:40-15:00:岩手県三陸沖におけるDASデータを用いた海域浅部P波速度およびVp/Vs構造推定
東京大学理学系研究科・福島駿【概要】:近年、歪みを数m間隔で数十km以上の連続長距離観測が行えるDistributed Acoustic Sensing(以下 DAS)が地球科学分野に応用されつつある。地震学的な手法を稠密なDASデータに適用することで、特に高空間分解能構造決定がこれまで難しかった領域、海域における最上部地殻のVp/Vs(P波とS波速度の比)の詳細な空間分布などに効果的である。そこで、本研究では、岩手県三陸沖におけるDAS観測記録を用いて詳細なVp/Vsを推定した。
関連論文/プレスリリース
15:00-15:20 Break
6) 15:20-15:40:津軽海峡周辺における分布型音響センシングのデータを用いたリアルタイム地震観測
海洋研究開発機構・馬場慧/荒木英一郎/横引貴史
電源開発(株)・川真田桂/内山敬介/吉塚卓史【概要】:本研究では、津軽海峡付近の海底光ファイバーケーブルを用いて、分布型音響センシング(DAS)による地震観測を行った。DASデータを使って深層学習モデルによる地震の走時読み取りを行い、走時に基づく震源決定を自動で行った。ケーブル近辺では、震源決定結果が気象庁地震カタログと5 km未満の差で一致したほか、気象庁カタログに掲載されていないマグニチュード0–1程度の地震が月に10個程度の割合で観測され、DASデータを使って地震の検出・震源決定を高い精度で行えることが確認できた。
資料7) 15:40-16:00:東北沖における海底観測点データの解析によるナガスクジラの鳴音の時空間分布
電力中央研究所・中村武史
防災科学技術研究所・望月将志/高橋成実
海洋研究開発機構・岩瀬良一【概要】:東北沖の海底に設置された観測点の地震波形データから、15-25 Hz付近の周波数帯にピークを持つ、ナガスクジラの鳴音によるシグナルが多数検出されている。2020年から現在までの長期間のデータを解析した結果、繁殖期にあたる秋季~春季の時期を中心にシグナルが検出され、特に北海道から岩手県沖の海域において1月~2月の時期に、シグナル波源が東から西へ移動するパターンが毎年繰り返されていることが分かった。また、3月~4月に、シグナル数が短期間に大きく減る傾向があることも分かった。広範囲に配置された海底観測点の長期間連続データから、ナガスクジラをはじめとする海洋生物の生態活動の解明に役立つことが期待できる。
資料8) 16:00-16:20:海底ケーブル障害検出用交流磁気センサ装置の開発と活用
KDDIケーブルシップ(株)・柳大介【概要】:通信用光海底ケーブルは地震などの自然災害や漁労などの人為的活動により損傷し、通信障害が生じることがある。その場合、陸揚局からの電気的、光学的試験によりおおよその障害発生海域を特定することができるが、現場海域において海底ケーブル陸揚げ局より印加される低周波の交流信号を交流磁気センサ装置にて検知することによって、障害個所をピンポイントで特定する必要がある。従来の曳航式交流磁気センサ装置は当該交流信号によって生じる磁界強度の計測機能のみであったが、開発した新型交流磁気センサ装置は水中ロボットに搭載されているシステムと同様に検知した磁界強度から海底ケーブルの埋設深度の算出が可能となり、敷設状況の確認がより容易となった。本発表では、障害点探査について使用される交流磁気センサ装置の概要及び新型交流磁気センサ装置に至った経緯とその効果について紹介する。
資料9) 16:20-16:40:光ファイバ分布計測の孔井観測におけるトレンド
ニューブレックス・岸田欣増【概要】:油井での光ファイバ分布計測は産業全体に影響を及ぼす存在になっており、従来のDTSからDASによる地震波計測、日本発のRFS高精度ひずみ計測へと発展し普及が進んでいる。昨年からはCCSや地熱開発への実装、物理探査コストを低減する地表サイスミックケーブルの実用化が進んでいる。一方、孔井用Downholeケーブルは実装技術や低い市場価格と高コストのギャップが市場拡大の課題である。しかし、技術の進歩により特に洋上資源開発分野では近い将来光ファイバ分布計測が必須の技術になると予測している。
資料00) 16:50-17:00:閉会のあいさつ、防災科学技術研究所・高橋成実