海底ケーブルの科学利用と関連技術に関する将来展望-は、今回5回目の開催を迎えます。本ワークショップではネットワーク社会の基盤を支える通信用海底ケーブルシステムの可能性に着目し、その有効活用について議論を行ってきました。今年度も関連要素技術、科学利用、さらには科学的成果の社会実装まで、多様な視点からアイデア、研究成果、開発計画等について情報共有を行うとで、コミュニティの繋がりを深め、関連技術の付加価値を高めていくことを目的とし本ワークショップを開催いたします。
日 時:2022年12月8日
主 催:東京大学生産技術研究所 海中観測実装工学研究センター
協 賛:東京大学地震研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立研究開発法人防災科学技術研究所、IEEE/OES Japan Chapter、
日本船舶海洋工学会、海洋調査技術学会、海洋音響学会、海洋理工学会、東京大学海洋アライアンス、海中海底工学フォーラム・ZERO
プログラム:Program_WS20221208.pdf
*プログラムは主催者の都合により変更する事がありますので、御諒承ください。
0) 開催のあいさつ:実行委員長・川口勝義
Keynote
1) 13:05-13:35:海底ケーブルによる地球科学的観測データの利活用と今後への期待
気象庁・束田進也【概要】:1979年、気象研究所により東海沖ケーブル式海底地震計が敷設されたのを皮切りに、現在、大学や研究機関によるものを含め10式を超える海底ケーブル観測が行われている。気象庁では、これらのデータを一元的に活用して地震津波に関する情報発表を行っているが、特に緊急地震速報や津波警報のような避難までの猶予時間が限られる情報では、震源域近傍でリアルタイム連続観測ができる海底ケーブル観測は欠かせないものである。同時に、業務的に自動処理を行う上では、海底観測特有の処理技術開発、ノイズや機器異常、長期間欠測への対応等も必須となる。 近年、DONETやS-net等、面的な海底ケーブル観測網が敷設されている。これらは震源決定のみならず、海外で発生した地震や火山噴火による津波の把握、観測点近傍で発生した地震による津波初期水位の把握に威力を発揮する。今後、これらの面的な海底観測データの解析技術向上が、さらなる被害軽減につながることを期待する。
資料講演
2) 13:40-14:00:南海トラフ海底地震津波観測網N-netの開発と構築
防災科学技術研究所・青井真/武田哲也/功刀卓/篠原雅尚/三好崇之/植平賢司/望月将志/髙橋成実
東京大学地震研究所・篠原雅尚【概要】:東北地方太平洋沖地震津波による教訓や南海トラフ地震発生の懸念などを踏まえ、地震及び津波による被害軽減や学術を目的として、太平洋沿岸域では防災科研やJAMSTEC、気象庁、地震研などにより、ケーブル式のリアルタイム地震津波観測が構築・運用されている。ケーブル式による稠密な地震津波観測は、海域で発生する現象を間近で捉えることが可能であるとともに、地震や津波の即時予測という防災の観点でも現象の直接検知までの時間を大幅に短縮できるという大きなメリットがある。我々は、南海トラフ想定震源域であるにもかかわらず観測の空白域となっている高知県沖から日向灘にかけての海域に、新たに南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)の構築を進めている。本講演では、N-netの概要を紹介する。
資料3) 14:00-14:20:CTBT国際監視制度の地球科学への応用 −ハイドロフォンアレイによる水中音波観測
海洋研究開発機構・松本浩幸【概要】:包括的核実験禁止条約(CTBT)は、宇宙空間、大気圏、水中、地下を含むあらゆる空間における爆発をともなう核実験を禁止する条約である。核実験を検証する手段のひとつが国際監視制度(IMS)である。IMSは4種類(地震波、水中音波、微気圧振動、および放射性核種)の観測所をグローバルに設置して核実験を監視する。このうち水中音波観測所は11箇所あり、うち6箇所は海中のハイドロフォンアレイで監視する。本発表では、IMSハイドロフォンアレイの概要ならびに地震や火山活動にともなう水中音波信号のデータ解析について紹介する。
資料4) 14:20-14:40:海底ケーブル光ファイバーセンシングによる超広帯域稠密海底観測の展開
海洋研究開発機構・荒木英一郎/横引貴史/松本浩幸/馬場慧/辻修平/西田修平/町田祐弥
東京大学理学系研究科・田中愛幸【概要】:海洋研究開発機構(JAMSTEC)では南海トラフ巨大地震発生帯の現状把握を目標として、DONET等の高度な海底地震・津波観測システムの開発を行っている。DONETで得られた海底での広帯域観測記録からは、南海トラフ沖合でゆっくり地震活動が、地下構造とも関係しつつ複雑に展開していること示唆され、さらなる詳細な観測と分析が求められている。そこで、海底ケーブルに分布型光ファイバーセンシングを適用して、これまでにない稠密な観測でゆっくり地震の活動の実態に迫ろうとしている。その最初の試みとして120km沖合まで伸びる室戸沖海底ケーブルを使った試験観測を行っている。当初陸から50km までの長周期ノイズの非常に大きなDAS観測から始めたが、超安定レーザーによる長周期安定化と観測距離の延長をすすめ、現在ではゆっくり地震の巣の真上である沖合約100kmまでDONET海底広帯域地震計と比べても遜色のないノイズレベルで稠密な広帯域観測が行えるまでになってきた。
資料5) 14:40-15:00:沖合観測網を活用した津波データ同化による津波予測 −フンガ火山噴火の事例−
海洋研究開発機構・王宇晨/今井健太郎/楠本聡/高橋成実【概要】:2022年1月15日、フンガ火山の噴火による大気振動により津波が励起され、津波は太平洋を横断した。津波は噴火から約7時間後に日本に到達し、沖合観測網や沿岸観測所で記録された。このような大気振動によって励起される津波は波源の特定が難しく、従来利用されている津波予測手法の適用は難しい。一方で、沖合観測網による津波のデータ同化手法を用いると波源の特定を行わずとも沿岸津波予測が可能になる.本研究ではDONETによる沖合水圧観測データを利用して、津波データ同化による早期予測の可能性について報告する。1月15日23時(JST)までのDONET12地点の水圧観測波形を用いて津波を予測したところ、最大津波高の予測精度は97%であった。沖合観測網とデータ同化手法により、波源の特定が難しい非地震性津波の早期予測が達成できる。
資料
15:00-15:20 Break
6) 15:20-15:40:Flowing Data and Competing Powers: Dimensions of submarine cable security
笹川平和財団海洋政策研究所・Fabrizio Bozzato【概要】:Most of the world’s Internet traffic travels at light speed via submarine cables running across the oceans. The ongoing surge in undersea cable deployments around the globe is driven by a fast-rising demand for data, cloud-based services, future generation networks, and accommodating a growing ‘Internet of Things’. Against the backdrop of emerging competitive techno-spheres, hundreds of undersea cables - operated and owned by an eclectic lot of state and private entities - support everything: from data and mobile network traffic to bandwidth-intensive applications. Therefore, as a physical topology, these cables are the core critical infrastructure of the digital era. They also represent an overlooked element of techno-geopolitics that is crucial for security and resilience of data transfers, Internet services, and communications worldwide. Resultantly, submarine cable resilience and security are an essential component of global security governance, with implications and challenges spanning connectivity, regulatory frameworks, defense cooperation and narrow technical issues.
資料7) 15:40-16:00:外装化海底ケーブルの機械的寿命の限界と経済的な保守基準の提案
国際ケーブル・シップ(株)・藤田尚之【概要】:光海底ケーブルシステムは設計寿命の25年間と厳しい設計・製造条件が課されている。しかし、外装化ケーブルの鉄線についての機械的長期信頼性については基準が設定されていない。これまでに長期間に渡り敷設された後のケーブルは鉄線の劣化が確認されている。この原因の究明と劣化した外装鉄線についての長期信頼性について評価を行い、外装ケーブル鉄線の機械的劣化の機構および詳細分析を基に、海底ケーブルシステム保守および予防保全活動に有効な基準を提案する。
資料8) 16:00-16:20:海底で拡張可能なフレキシブル光メッシュネットワークの開発と今後の取り組み
NECネッツエスアイ(株)・福山洋介【概要】:弊社では、オフショアオイル&ガス市場が抱える諸課題に対して新しいアプリケーションの提供による解決を目指しています。今回は、我々が開発を続けている海底通信ケーブルシステムを用いてオフショアプラットフォーム間を接続する『Subsea Connection System (SCS)』と日本財団様の助成事業により開発を進めてきたアプリケーションをご紹介させていただきます。あわせて弊社がブラジルでカンピーナス大学の協力のもとオイルメジャーやその他のオペレータ向けに、上記システム及びアプリケーションをデモンストレーションした際の成果をご紹介します。また、その際にいただいた意見や構想を元にした今後の取り組みについても共有させていただきます。
資料9) 16:20-16:40:大容量光海底ケーブルシステム伝送技術の最新動向と展望
(株)KDDI総合研究所・高橋英憲【概要】:光海底ケーブルシステムの伝送容量に対する需要は増加の一途である。新規敷設の大容量ケーブルシステムのみならず、敷設済のケーブルシステムをディジタルコヒーレント伝送技術により設計容量を拡大する取り組みもなされている。さらに現在の課題であるファイバ心線数制限と給電電力制限下においてもケーブルシステム当たりの伝送容量を拡大していくための技術開発がなされており、その最新動向と展望について紹介する。
資料*) 16:40-16:50:協賛学会特別行事
IEEE OES Japan Chapter Young Researcher Award2022表彰式等を予定しています。
00) 閉会のあいさつ、防災科学技術研究所・高橋成実