海底ケーブルを主要なインフラストラクチャとする観測システムは、海底で発生する多様な現象の可視化をリアルタイムに実現する唯一の手法として進化を遂げてきた。すでに海域に展開されているシステムの中には10年を超える運用を実現しているものも多く存在するようになり、技術的な信頼性の検証や観測手法としての有用性の検証も行われてきている。
本ワークショップではこれまで、観測システムや観測手法の開発、そこから得られるデータの高度な利活用、さらには新たな観測計画への期待や将来展望について議論を行なってきた。第三回となる今回は、これらの話題に加え、加速的に進化する通信網を支える最新の技術や市場動向にも焦点を当て、研究・開発・製造・構築などに携わるステイクホルダーと取得されるデータの利用者が会し、海底ケーブルの科学利用に関する情報の共有を図ることを目的とする。
日 時:2020年12月4日
主 催:東京大学生産技術研究所 海中観測実装工学研究センター
協 賛:東京大学地震研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立研究開発法人防災科学技術研究所、IEEE/OES Japan Chapter、
日本船舶海洋工学会、海洋調査技術学会、海洋音響学会、海洋理工学会、東京大学海洋アライアンス、海中海底工学フォーラム・ZERO
プログラム:Program_WS20201204.pdf
0) 開催のあいさつ:実行委員長・川口勝義
Keynote
1) 光海底ケーブルシステム伝送技術の最新動向
KDDI総合研究所・森田逸郎要旨:種々の革新技術の導入により、最新の商用海底ケーブルシステムでは、ケーブル当りの伝送容量が60Tbit/sにまで達しているが、継続する通信容量の増加に応えるために、さらなる伝送容量拡大の要求が続いている。そのような要求に応えるために、現在開発が進められている最新技術動向について述べると共に、より一層の大容量化を実現するために研究が進められている将来技術を紹介する。 資料1
講演
2) 通信光海底ケーブルの技術(開発)動向
(株)OCC・松田伸明要旨:5G進展や、コロナ後のニューノーマル社会でのテレワーク普及、回線需要の急増に伴い、世界各地で通信事業者及びOTT(Over The Top)の積極投資により光海底ケーブルは、敷設ラッシュとなっている。このような環境下において、光海底ケーブルに対する要求事項が大きく変化してきている。その要求事項に応えるべく、現在開発が進められている光海底ケーブルの方向性と将来性について紹介する。 資料2
3) 日本国内における洋上風力発電の市場動向 –海底送電線及び通信ケーブルの役割-
一般財団法人港湾空港総合技術センター・藤原法之要旨:我が国の総発電量に占める再生可能エネルギーの比率は16%(2017年)と低く、風力発電に至っては0.6%と欧米各国に比べて極めて低い中、再生可能エネルギーは、国産エネルギー資源の拡大、低炭素社会の実現、関連産業創出などの観点から、普及の拡大が期待されています。この様な中、(一財)港湾空港総合技術センター(以下、SCOPE)は、より安全な「洋上風力発電等設備」及び「海底送電線及び通信ケーブル」設置の為に施工計画・手順書の審査等を行うMWS(マリンワランティサーベイ)業務に取り組んでいます。 本公演では、「洋上風力発電設備等」の構成、海底送電線及び通信ケーブルの洋上風力発電に於ける一般的なトポロジー、海外に於ける運用管理事例、施工時の障害事例、MWS業務及び日本周辺海域の洋上風力発電設備建設計画等の紹介をさせて頂きます。 資料3
4) 海底観測システムの海外展開
日本電気株式会社・時岡幹能要旨:2011年より本格的な運用が開始されたDONET、東日本大震災後にその設置が加速されたS-Net、そして現在整備が進行しているN-Netのような大規模な海底ケーブル式海底地震津波観測システムは、これまでのところ地震大国である日本ならではのプロジェクトであると思われる。これらの地震監視・観測プロジェクトの実現に要する優れた専門的研究の蓄積と学術的知見、国としての財源、そしてこのようなプロジェクトに対する幅広い社会的な賛同といった要素は、わが国においてこそ得られるものと言える。一方、海外に目を向けると、わが国同様地震や津波の被害を繰り返し経験している国々や地域からは、日本での成果への憧れにも似た言葉を耳にすることも少なくない。それらの国々や地域には、既に自国としての観測システムを持つ台湾や、以前より検討を重ねているペルー、チリ、そしてインドネシアが含まれる。ここではこれらを含む海外での海底地震津波観測システムの可能性についてご紹介したい。 資料4
5) 海底ケーブル敷設船と搭載設備
国際ケーブル・シップ株式会(KCS)・佐藤茂之要旨:2019年に竣工した海底ケーブル敷設・修理船「KDDIケーブルインフィニティ」の運航性能等と合わせて、世界の海底ケーブル敷設船、通信ケーブル敷設船と電力ケーブル敷設船、再生可能エネルギーとして着目されている洋上風力発電設備向けの海底ケーブル敷設装備装置類の紹介と取り組みをご紹介させて頂きます。 資料5
6) 光ファイバ式光無線通信技術が実現する無線ROVの遠隔操作
株式会社島津製作所・佐藤恵子要旨:海洋開発の効率化や低エミッション化に貢献すると考えられているAUVや無線ROVには、安定した高速通信手段が非常に重要であり、可視光を用いた光無線通信が活用されることが検討されてきている。特に無線ROVは海底設備周辺でリアルタイム操作をしながら運用される事が想定されており、複雑な海底設備周辺で通信圏外とならないことが安全な運用に必要となる。今回紹介する「光ファイバ式光無線通信技術」は、複雑な海底設備周辺に光ファイバを用いる事により自在に通信エリアを設計できる技術である。同技術の実用化が進めば、海底ケーブルの敷設、点検、メンテナンス等にも適用が期待できるだろう。2020年6月に実施した実証デモンストレーションの映像を交えて紹介する。 資料6
7) 海底光ファイバーケーブルを利用した鬼界カルデラ火山性微動の即時モニタリング構想
神戸大学・杉岡裕子
海洋研究開発機構・荒木英一郎要旨:九州南方50 kmにある離島火山の鬼界カルデラは、薩摩硫黄島と竹島を除く大部分が海面下にある。7300年前の噴火以降、地表では硫黄岳の噴気活動が続く一方、海底下でも大規模な溶岩ドーム形成や活発な熱水活動、また火山性微動が高頻度で励起していることが、最近の海底下地震波探査により初めて確認された(Tatsumi et al., 2018)。本計画では、既設の竹島・薩摩硫黄島・黒島・枕崎を巡る光ファイバーケーブル(三島村所有)を利用したDAS計測を実施し、カルデラ直下の地殻変動常時観測の実現を目指す。 資料7
8) DAS計測技術による三陸沖光ケーブル観測システムを用いた海底地震観測
東京大学地震研究所、篠原雅尚・山田知朗・悪原岳・望月公廣・酒井慎一要旨:光ファイバをセンサとして用いるDistributed Acoustic Sensing(DAS)計測は、空間的に高密度なデータが取得可能であることから自然地震観測に応用され始めている。地震研究所は、1996年に三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムを岩手県釜石市沖に設置し、現在も観測を行っている。このシステムは将来の拡張用として、先端まで伸びる6本(3組)のファイバが用意されている。このファイバは、分散シフト・シングルモードであり、DAS計測に適している。そこで、次期海底ケーブル式観測システムの新技術として、三陸沖光ケーブル観測システムによりDAS技術を用いた地震観測研究を実施している。短期間の試験観測の結果、ケーブルシステム近傍の微小地震や深発地震など多数の地震が観測された。 資料8
9) 千葉県におけるS-netの活用について
千葉県防災政策課・五十嵐光嗣要旨:千葉県東方沖の日本海溝沿いは、東日本大震災の震源域の割れ残りで、地震の発生が懸念されていることから、当県は防災科学技術研究所、海洋研究開発機構の協力のもと、S-netの観測情報を活用した津波浸水予測システムを開発した。今回は、津波浸水予測システムの概要やクラウドを利用した配信システム、S-netでのノイズの影響、今後の展望、課題について紹介する。 資料9
10) 海底地震計データの鉄道早期地震警報への適用
鉄道総合研究所・野田俊太要旨:鉄道分野においては、陸域に設置された従来の地震計に加えて、DONETおよびS-netの地震計データを活用することで、海域で発生する巨大地震に対して即時的に警報を出力し、速やかに列車を停止させる取り組みが行なわれている。ここでは、鉄道で使用されている海底地震計データを利用した早期地震警報手法を紹介し、さらにその将来展望について述べる。 資料10
11) 地震・津波データ利活用による地殻活動モデリングと推移予測
海洋研究開発機構・堀高峰要旨:海洋研究開発機構と防災科学技術研究所は、協力して地殻活動モニタリングと推移予測、ハザードマップやリスク評価の時間発展のシステムを構築する。気象庁が発表する臨時情報に合わせ、地殻活動の現状を可視化し、推移予測を行う。地震活動や地殻変動、津波といった海域で発生する様々な現象を観測し、即時予測と推移予測を組み合わせる。これらの情報を地域や企業と共有し、それぞれが防災・減災活動に利活用する体制構築を狙う。 資料11
12) 津波即時被害予測への高度化、防災科学技術研究所
防災科学技術研究所・高橋成実要旨:これまでDONETのリアルタイムデータを用いて、津波到達時刻、津波高、浸水エリア、浸水深を即時に予測するシステムを開発、実装してきた。近年、S-netを用いたシステムを千葉県に導入したところである。これを瓦礫発生量と集積場所を即時予測するシステムに高度化する。建物情報をモデル化し、自動車や船舶も航空写真に基づいて初期位置を決定する。本講演では、この津波即時被害予測システムの開発状況を発表する。 資料12
00) 閉会のあいさつ、防災科学技術研究所・高橋成実