【 ワークショップ:海底ケーブルの科学利用と関連技術に関する将来展望 -第4回- 】

 21世紀初頭に研究コミュニティの間で活発化した海底ケーブル技術を用いた多目的な海底リアルタイム観測についての議論は、2010年頃には北米や日本でいくつかのシステムが海域展開されるという結果に結実した。これらのシステムは10年近い運用が行われ、そこで得られた成果を基に次のフェーズへの移行が検討される時期に来ている。
 本ワークショップではこれまで、観測システムから得られた科学的知見や高度利活用への展望、リアルタイムデータの社会実装、光通信関連技術、敷設船やROVなど作業プラットフォーム技術に関して議論を行ってきた。これらの中には、今年度に入り次の研究開発計画として結実しそうなもの、商用展開や社会実装として成果を創出し始めたものなども見受けられるようになった。今回のワークショップでは前回までと同様に海底ケーブルの科学利用に関するアイデアと関連技術の動向を紹介するとともに、特に展開の見られる話題について最新情報の共有を行うことを目的とする。


日 時:2021年12月9日

主 催:東京大学生産技術研究所 海中観測実装工学研究センター

協 賛:東京大学地震研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立研究開発法人防災科学技術研究所、IEEE/OES Japan Chapter、
    日本船舶海洋工学会、海洋調査技術学会、海洋音響学会、海洋理工学会、東京大学海洋アライアンス、海中海底工学フォーラム・ZERO


本ワークショップは、2021年12月9日~11日に開催されるTechno-Ocean 2021 のコンカレントイベントとして開催されました。


プログラム:Program_WS20211209.pdf




プログラム

0) 開催のあいさつ:実行委員長・川口勝義


Keynote

1) 光ファイバーセンシングで拓く沈み込む巨大地震発生帯の動態把握
     海洋研究開発機構・荒木英一郎

要旨:海底に展開された光ファイバーケーブルをセンサーとした稠密な観測によって海域の巨大地震発生帯の動態を把握する試みが始まっている。それは地震などの短周期の現象だけでなくゆっくり滑りや年単位のプレート収束による海底変形をも検出しようとするもので、室戸沖などの海底ケーブルを用いた試験的な取り組みが始まっている。R3年度より開始した科研費学術変革領域研究(A)「Slow-to-Fast地震学」においても、これらを加速させることが期待されている。
資料

講演

2) 可搬型・光格子時計による相対論の検証と利用
     東京大学大学院工学系研究科・香取秀俊

要旨:この20年間に劇的な進歩を遂げた原子時計は、重力で曲がった相対論的な時空間での時間の共有の難しさを露呈させ、さらには物理学が暗黙の仮定をする物理定数の恒常性まで研究の対象にしつつあります。小型・可搬化を進めている光格子時計の現状や、2台の時計の高低差を重力赤方偏移として数 cm精度で読み出す相対論的測地の実験を紹介し、高精度な時計のネットワークが社会実装されたときの未来の時計の役割を展望します。
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3) 海域巨大火山(鬼界カルデラ)におけるDAS地震動観測と火山活動モニタの可能性
     海洋研究開発機構・中野優/荒木英一郎/中島倫也/伊藤亜妃/松本浩幸/横引貴史/利根川貴志/山本揚二朗/木村俊則/藤江剛/田中聡
     神戸大学・杉岡裕子

要旨:九州南方に位置する鬼界カルデラは約7300年前にカルデラ形成を伴う巨大噴火を起こした火山であり、殆どが海底下のため海域調査が重要である。我々はその構造及び活動調査のための新しい観測手法開発のため、鬼界カルデラ周辺に敷設された光海底ケーブルを用いた分布型音響センシング(DAS)観測を行った。これまでの観測で火山活動を示す地震など多くの記録が得られ、火山の活動把握および構造調査に役立つと期待される。
資料

4) 海底ケーブル観測によるリアルタイム連続地殻活動観測の成果と今後への期待
     海洋研究開発機構・堀高峰

要旨:国難とされる南海トラフ大地震に備えるため、スロースリップなどを捉える海底地殻変動連続観測のための技術開発が進めてきた。そのおかげで、昨年末から今年初めにかけて発生したスロースリップやそれに伴うゆっくり地震の時空間変化を、ちきゅうによる数百m孔での間隙水圧観測や数十m掘削孔での傾斜観測やDONETの広帯域地震計などによって、リアルタイムに捉えることに成功した。こうしたリアルタイム海底地殻活動観測の成果を、南海トラフ地震臨時情報の高度化につなげ、地震への備えを促進していきたい。
資料

5) 海底着座型掘削装置による孔内観測点構築
     海洋研究開発機構・村島崇/横引貴史

要旨:海洋研究開発機構では2018年度から紀伊半島沖熊野灘において地殻変動観測を目的とした観測点構築を進めている。2021年1月には海底着座型掘削装置(BMS)により水深1,881mの海底に観測孔を掘削した後、遠隔操作式無人探査機(ROV)により観測孔内へのモルタル打設と高精度傾斜計の設置を行い、津波・観測監視システム(DONET)へ接続してリアルタイム観測を開始した。本講演ではDONETに接続された既設観測点へ孔内観測装置を増設した作業について紹介する。
資料

6) 海底地震計情報の新幹線早期地震検知への活用について
     東日本旅客鉄道(株)・長澤徹

要旨:JR東日本では、高速で走行する新幹線の地震時の安全性向上を目的に、線路沿線及び遠方に設置した地震計で地震発生を早期に検知して列車を緊急停止させる「新幹線早期地震検知システム」を運用している。1998年のシステム導入以降、地震計増設や検知方法の改良、緊急地震速報の活用等、早期地震検知体制の強化に取り組んできたが、2017年からは海底地震計情報を活用することで、特に東日本太平洋沖で発生する地震の更なる早期検知が可能となった。今回、本システムへの海底地震計情報の活用状況を紹介する。
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7) クラウド環境DELFIとその地震防災分野での活用
     シュルンベルジェ(株)・大財綾子

要旨:近年ではクラウドベースのハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)インフラや、モバイル機器、人工知能など、新しい技術が数多く出現し、実用化されてきています。弊社ではこの新しいデジタル革命に対応するために、コグニティブクラウド環境「DELFI(デルフィ)」のサービスを開始しました。本発表ではその概要と、どのように地震津波防災に貢献できるかの可能性も含めてご紹介いたします。
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8) 海底で拡張可能なフレキシブル光メッシュネットワーク開発に向けて
     NECネッツエスアイ(株)・米崎義高

要旨:弊社では、オフショアオイル&ガス市場が抱える諸課題に対して新しいアプリケーションの提供による解決を目指しています。今回は、海洋オイルフィールドのリグ間通信における諸課題を解決する手段として、海底通信ケーブルシステムを用いてオフショアプラットフォーム間を接続する『Subsea Connection System (SCS)』についてご紹介させていただきます。また、来年2月から3月にかけて、本システムを用いて、日本財団様助成事業により開発したアプリケーションの評価を予定しており、それらを通じて、ブラジルUNICAMPと共同でオイルメジャーへのデモンストレーションも計画しています。その準備状況につきましても併せてご紹介させていただきます。
資料

9) 近年の海底ケーブルにおける故障と修理の概要および海底ケーブルで起こっている諸問題
     国際ケーブル・シップ(株)(KCS)・五十嵐 歳三

要旨:近年における浅海・深海、両海域での海底ケーブルの故障状況・原因や修理工法の相違点、世界各国における領海内・排他的経済水域内での海底ケーブルの故障回数とケーブル船修理待ちによる遅延状況ならびに現在、海底ケーブルの建設・保守で抱えている物理的、環境的などの諸問題をご紹介させて頂きます。
資料

00) 閉会のあいさつ、防災科学技術研究所・高橋成実