【 ワークショップ:海底ケーブルの科学利用と関連技術に関する将来展望 -第8回- 】

 2006年のDONET開発から始まった今世紀の海域地震観測網の整備計画は、2011年の東北地方太平洋沖地震の被災を受けて加速され、以降S-netやN-netの整備につながり、これらの計画も2024年度には完成を迎え運用フェーズへと移行しました。一方で、初期に整備された海中の機器類はすでに海中において10万時間を超える運用期間を経過しており、予防保全や修理交換の計画検討が喫緊の課題です。このような中、伝送路である光ファイバ自体をセンサとして用いる、交換の不要な計測技術の開発も加速的に進んできています。第8回の「海底ケーブルの科学 利用と関連技術に関する将来展望」では海底観測技術の動向に加え、社会実装を意識したホットトピックを多く準備いたしました。
 昨年度と同様、本年も現地開催といたします。会場でお目にかかれることを楽しみにしています。


日 時:2025年12月5日(金)
    WS:13:00 - 17: 00
    意見交換会:17:30 - 19:30


会 場:東京大学生産技術研究所
    WS:An棟 2Fコンベンションホール
    意見交換会:An棟 1Fアーペ


主 催:東京大学生産技術研究所海中観測実装工学研究センター


協 賛:東京大学地震研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立研究開発法人防災科学技術研究所、IEEE/OES Japan Chapter、
    日本船舶海洋工学会、海洋調査技術学会、海洋音響学会、海洋理工学会、東京大学海洋アライアンス、海中海底工学フォーラム・ZERO


参加費:WS:無料、意見交換会:6,000円 *事前申し込み制


参加申し込み先:本会合は完全予約制です。
      東京大学生産技術研究所海中観測実装工学研究センター・杉松治美
      Tel:03-5452-6487, E-mail:harumis@iis.u-tokyo.ac.jp
      申し込み期間:11月28日(金)までにメールにてお申し込みください。
      懇談会費は現地でお支払いいただきます。(11月28日以降のキャンセルには対応いたしかねます)


プログラム:Program_WS20251205.pdf

*プログラムは主催者の都合により変更する事がありますので、御諒承ください。



プログラム

0) 開催のあいさつ:実行委員長・川口勝義


Keynote


1) 13:05-13:35:ワット・ビット連携とデジタルインフラの地方分散
     総務省総合通信基盤局電気通信事業部データ通信課・吉野哲也

【概要】:デジタルインフラは、我々の日々の生活に必要不可欠なものとなる一方で、データセンターや海底ケーブルの陸揚局が特定の地域に集中するなどの課題も抱えている。この問題に対処するために、政府が取り組む電力インフラと通信インフラを効果的に整備する取り組みである「ワット・ビット連携」に関する最新の動向を紹介しつつ、総務省における海底ケーブルを含むデジタルインフラの地方分散の方向性について紹介する。

講演


2) 13:40-14:00:海域観測データ利活用による社会実装の未来
     防災科学技術研究所・高橋成実

【概要】:現在、南海トラフ地震想定が見直され、合わせて各地域もその防災対応の見直しを進めている。マグニチュード(M)9クラスの南海トラフ地震発生、M8クラス地震の連動発生、その前後で活発化が想定される内陸の直下型地震、昨今頻発する豪雨災害や土砂災害、これらを有機的に考慮した対応が望まれる。これに対し、津波即時予測、地震被害即時評価、地殻活動モニタリングといった、研究成果情報を適切に提供することで、被災後の対応の効率化を促す取り組みを進めている。本講演では、特に、海域観測データを使用した津波即時予測、地殻活動モニタリングを中心に、データ提供の項目とその意味、いくつかの組織を念頭に置いた利活用について報告する。

3) 14:00-14:20:伊豆諸島における海底光ケーブルを活用した火山観測の実施に向けた取組
     東京都総務局総合防災部・濱本 真希

【概要】:東京の島しょ火山については、特に伊豆大島と三宅島では、数十年に一度、噴火を繰り返しており、一度噴火が発生した場合、島外避難も想定される。このため、東京都は、気象庁との連携による火山活動状況の観測や各町村への情報提供、火山避難計画の策定など、火山噴火時の島民の安全確保に向けた取組を行っている。一方、離島の火山体は、海面下に広がっており、陸域と同様の観測が困難なことから、東京都は、JAMSTEC と協力し、保有する海底光ファイバーケーブルを活用した海底火山のリアルタイム観測に向けた取組を進めている。本講演では、こうした取組の概要や目指すべき方向性等について紹介する。

4) 14:20-14:40:グローバル光ファイバセンシングの実現に向けて
     海洋研究開発機構・荒木英一郎/横引貴史

【概要】:国際海底光ケーブル通信網は大洋底に敷設された全長10000km を超えるような長大な光中継器がアレイ接続された光ファイバケーブルによって実現している。もし、このようなケーブルに分布する光ファイバ歪を自在に観測できれば、海洋プレートの生成から沈み込みまでのダイナミクス、ケーブル下に拡がる海洋地殻およびマントルの構造、さらには海洋深層水循環の様式など、これまで、大洋底での観測がないことから未知であった様々なターゲットの地球物理学的研究が飛躍的に進められるのではないかと考えている。本講演では、そのような「グローバル光ファイバセンシング」の実現に向けた検討について紹介する。

5) 14:40-15:00:ケーブル輻輳海域における敷設工法の改善
     KDDIケーブルシップ(株)・天野高志

【概要】:昨今、生成AI(人工知能)など新技術の普及で通信量が増え、光海底ケーブルの需要が拡大している。日本列島周辺海域でも新規ケーブルの建設は続いているが、世界的に見ても、当該海域の沿岸部では特にケーブルの輻輳が進んでおり、新規ケーブルの敷設にあたっては、既存の近接ケーブルとの安全離隔を保てる区域が限られてきている。そのため敷設ルート範囲は制限され、特に分岐装置の敷設位置は沿岸の輻輳区域を避け、沖合の深海域に設けることを余儀なくされてきている。深海域に分岐装置を設置する際には、基幹側ケーブルに分岐側ケーブルと分岐装置の合成重量がかかるため、海象・気象条件によっては、ケーブルに許容以上の張力が印加される可能性がある。そこでKCSでは、敷設時にケーブルに加わる張力を軽減することを目的に、基幹ケーブルとバイパスロープに張力を分散させて分岐装置を設置する「バイパス工法」を提案し、実施した。

 

15:00-15:20 Break

 

6) 15:20-15:40:「能登半島地震と海底ケーブル故障」に関する地球科学的な問題の検討
     海洋研究開発機構・野徹雄/中島亮太/金松敏也/今井健太郎/川口勝義/中村恭之/藤江剛/富士原敏也
     KDDI・黒田浩之
     金沢大学・佐川拓也
     産業技術総合研究所・高下裕章

【概要】:前回の本ワークショップにて、KDDIケーブルシップの藤原空氏から「令和6年能登半島地震と海底ケーブル故障」というタイトルで発表があった。藤原氏の発表は社会インフラの維持管理の側面で非常に重要な問題提起である。一方で、地球科学的な側面でみると、能登半島地震に伴った富山深海長谷付近での複数の海底地滑りが報告されているため(Minami et al. 2024: Minami and Kawamura,2025: Kasaya et al. 2025)、海底ケーブル故障の背景の1つとして、それらの海底地滑りによる混濁流の発生の影響がまず考えられる。その仮定が正しければ、日本海における深海長谷の形成過程、堆積物の供給過程、地震履歴推定などの研究にも関わってくる事象である。私たちはその混濁流の発生の可能性について、地震発生後に得られたいくつかのデータをもとに検討を進めており、その暫定的な結果を報告する。

7) 15:40-16:00:トカラ列島近海における2025年群発地震活動の緊急海底地震観測
     東京大学地震研究所・篠原雅尚/山田知朗
     鹿児島大学理工学研究科・八木原寛/平野舟一郎/仲谷幸浩/中尾茂
     宮崎公立大学人文学部・山下裕亮
     九州大学理学研究院・馬場慧
     東北大学理学研究科・日野亮太/東龍介
     海洋研究開発機構・荒木英一郎/横引貴史

【概要】:トカラ列島の悪石島・小宝島間の海域では、2025年6月から活発な群発地震活動が始まり、多数の有感地震が発生した。活動は7月下旬から低下したもの、活動は終息していない。活動域は海域であり、陸上の定常地震観測網からでは正確な活動が判明していない。そこで、科学研究費補助金「特別研究促進費」により、8月初めに海底地震計10台を活動域の海底に設置して、海底地震観測を開始した。設置した海底地震計のうち、4台は高感度広帯域地震計を搭載している。また、活動域の直上に敷設されている光海底ケーブルを用いたDAS観測も実施した。ここでは、観測の概要と予察的結果について紹介する。

8) 16:00-16:20:トルコ・北アナトリア断層を横断するDAS観測
     東京大学地震研究所・加藤愛太郎

【概要】:2024年6月より、トルコ・マルマラ海に敷設された通信用光ファイバーケーブル(長さ約25 km)を用い、北アナトリア断層をほぼ南北に横断する形でDAS観測を実施している。本発表では、北アナトリア断層沿いやその周辺域、さらには遠地で発生した地震のDAS記録を紹介し、そのデータクオリティについて議論する。加えて、雑微動解析により海域浅部のS波速度構造を推定した。その結果、北アナトリア断層の南側に幅約3 kmの顕著な低速度層が確認された。この低速度層には散乱点が集中しており、北アナトリア断層の長期的な活動に伴って形成された破砕構造を反映している可能性が高い。

特別講演


9) 16:20-16:40:沖縄丸・小笠原丸から始まる海底ケーブル敷設船の歴史
     東京大学名誉教授・浦環

【概要】:明治29年(1896年)ケーブル敷設船「沖縄丸」が英国より到着、明治39年(1906年)「小笠原丸」が三菱長崎造船所で竣工。昭和19年(1944年)「沖縄丸」は米国の潜水艦の攻撃を受け、沈没。昭和20年8月22日「小笠原丸」はソ連の潜水艦の攻撃を受け沈没。両船の建造は日露戦争の関係が深い。日本海海戦前、旗艦「三笠」は朝鮮半島の鎮海湾にあった。そこに至る海底ケーブルは、どのように敷設されていたのか。明治38年(1905年)日本海海戦を勝利に導いた「信濃丸」の「敵艦見ゆ」の信号は、どのように伝えられたのか。小笠原丸の現状は。これらについて延べ、先人たちの技術への慧眼に光を当てる。

*) 16:40-16:50:協賛学会特別行事
     IEEE OES Japan Chapter Young Researcher Award2025表彰式等を予定しています。

 

00) 16:50-17:00:閉会のあいさつ、防災科学技術研究所・高橋成実


意見交換会 17:30- 19:30

場所:An棟 1Fアーペ

会費:6, 000円
   参加には事前お申込が必要です。(11月28日以降のキャンセルは承りかねますのでご諒承ください)
   支払は会場にて御願いいたします。